調査・研究

フィリピン デイケアセンター開発 [調査報告]
バタンガス州タナウアン市マリアパス、マハガンボハギン地区について
A.S.I.A.NIPPON 井 原 淑 雅

本報告書では、フィリピンで活動しているNGO団体CIWESTが、2004年12 月に建設したデイケアセンターについて、建設に至るまでの経過及び2006年1月に実施したインタビューについての結果報告および分析をおこない、調査対象地区の生活や教育の実態を理解することによって、この地区における教育に関する問題点の指摘を試みたいと思う。そして、本報告書がCIWESTのめざすセンターを中心とした地域開発への教育的側面からのアプローチのひとつとなるものとしたい。
 
NGO団体CIWESTの福祉事業
NGO団体CIWESTの前身である「国際福祉協会」が、2000年より「魚を与えるよりも魚の取り方を教える」活動合言葉に、「人々の雇用、そして富と発展への機会の平和な配分」をめざして、フィリピン国においてCIWEST財団を設立した。CIWESTとは、“Center for International Welfare, Enterprise, Skills & Technology Foundation, Inc”の略である。この財団は、「福祉分野」・「スキル&テクノロジー分野」・「事業・投資分野」を主要な活動内容としている。特に「福祉分野」の活動は地域支援・教育活動を中心としており、中でも教育施設としての「デイケアセンター(幼稚園および多目的センター)」建設は、積極的に推進している事業である。
国内においては、「CIWEST JAPAN」として、「CIWEST財団」の福祉分野に特化して活動を推し進めている。その理由は、CIWEST設立の使命として掲げた「福祉・教育力の充実が人々の心と生活を豊かにする」とする考えを、理事長の宮本氏と副理事長のスーサン氏を始めとするスタッフ全員が、長年に渡るフィリピン各地での支援活動を通して痛感しているからである。そのため、「CIWEST JAPAN」は「CIWEST財団」の福祉分野と常に連絡を取りながら、調査・事業計画・実施・運営を行っているのである。その一つの事業としては先にも述べたように、フィリピン地方都市での「デイケアセンター(幼稚園および多目的センター)」の建設事業である。
2004年12月現在までに、6棟を完成するに至った。また、物質支援活動も継続して実施しており、愛知県内の小中高等学校や各地方行政に対して、活発な働き掛けを行っている。たとえば、豊橋市では消防車や救急車を、埼玉県熊谷市からは中古の椅子・机や放置自転車の寄贈協力がある。現在は愛知県豊橋市の中部圏高度情報システム協同組合(A.O.機関=フィリピンからの研修生受け入れ機関)内にその活動拠点を置いて活動をしている。
CIWESTの教育開発協力事業としてのデイケアセンター建設の目的については次の四項目である。

  • 貧困層の子ども達に教育を受ける場を供給すること。
  • センター教員との協働によるフィリピン就学前教育の研究と開発を行うこと。
  • 地域の活性化を担うものとしての「デイケアセンター」開発を推進すること。
  • フィリピンの子どもたちに対する教育施設としてだけではなく、 日本の青少年に対しての国際理解教育のための施設とすること。
特に国際教育協力懇談会の最終報告でも、「協力を進めていく際に、全般的に留意すべき点として、開発途上国における子どものみならず、親、青年、成人を含めた地域社会のメンバー全体を取り込みながら、協力を計画・実施していくこと」が重要であると指摘しているように、CIWEST でも上記Bの目的はこのことを見すえて実施している。 
    
現在までにCIWESTの建設したデイケアセンターについて列挙すると次の7棟である。
  • 2001 年3月リサール州アンゴノ市サントロザリオ地区
  • 2002年12月リサール州アンゴノ市マハバンパラ地区
  • 2003年12月パナイ島アクラン州カリボ市リバカウ地区
  • 2003年12月バタンガス州タナウアン市マリキンポロ地区
  • 2004年12月バタンガス州タナウアン市マリアパス、マハガンボハギン地区
  • 2004年12月バタンガス州ロザリオ市バヤワン地区
  • 2004年5月バタンガス州マタハスナカホイ市キララグラガン地区
また、現段階でのCIWEST事業について整理すると次のようになる。

CIWEST事業
活動分野教育・訓練協力形態資金援助・物資供与教育領域就学前教育協力事業内容文具・教材・図書の供与・施設建設活動地域フィリピンパートナー地域住民(現地政府機関)
CIWEST事業には上記の表に示されていない特徴の一つとして、日本と現地とに運営組織を持っていることである。特に現地組織ではフィリピン人がスタッフとして活動している。そのために、ロジャースの示すチェンジエージェントがCIWESTの場合にはフィリピン人であることから、対象地域住民との間に同質性が高いため、事業を進める上で現地の協力や協働の可能性が強く、目的を達成しやすい状況にあるといえる。また、日本側組織の日本人スタッフとの間に異質性が生じないようにするために、日本社会での生活や労働経験を持つ副理事長のスーサン氏を中心に、技術研修制度の修了者をスタッフとして雇用するなど、フィリピンと日本との両社会のバランスを保つ努力が常に行なわれている。
このことはCIWESTの事業が、地域社会の問題点やニーズを的確に抽出し、それを解決・改善するために日本社会のリソースを、より国内の活動に近い形で提供することを可能としているからである。
 
                
2.バタンガス州タナウアン市マリアパス、マハガンボハギン地区デイケアセンターについて
バタンガス州タナウアン市は、首都マニラの南68kmに位置する。タナウアン市の人口は、117,539人、世帯数は21,912戸であり、都市部に30,337人、農村部に87,312人が生活している。(2000年 Community Affairs Office)タナウアン市の中心部よりさらに南西11kmの場所に、バランガイマリアパスがある。ここはタール火山のクレーターにできたタール湖の湖岸に位置し、比較的山間部に位置するシチョマリアパス地区と湖畔に位置するマハガンボハギン地区とに分かれる。バランガイマリアパスには約150家族、約1,700人の住民が生活している。主な産業は農業であり、住民のほとんどが農業従事者で、米やトウモロコシなどを生産している。しかし、最近では外国企業の進出により、シチョ・マリアパス地区の住民の中には、そこで働いている者もいるということである。しかし、2004年12月にデイケアセンターを建設したマハガンボハギン地区の住民は、ほとんどが漁業従事者であり、タール湖で捕れるテラピアやマリプト、バンス、タグリースなどの魚を捕獲して生計を立てている。
NGO団体CIWESTに対し、デイケアセンターの建設をこの地区に依頼してきたのは、タナワン市の市の管理責任者であるNorberto S.Mendoza氏である。彼がこの地区にデイケアセンターを建設することを強く希望した理由としては、この地区にはセンターがなかったことが一番の理由ではあるが、デイケアセンターの代わりに古い教会の片隅を利用して、子どもたちを指導していたGelacio O.Dimapilis氏の熱心な姿勢に動かされたということであった。建設は2004年の9月から12月まで実施された。建設の指導は、日本の技術研修制度を利用して建築技術を身につけたRodrig Antonio氏により、その地区のボランティアワーカーたちを使って建設された。建設材料費はCIWESTのファンドによって賄われた。また、ワーカーの昼食に充てる米は、市より若干支給されたということである。ここに建築する際の一番の問題点は、資材や建設機材の運搬をどのようにするかであった。なぜなら、この地区は船による移動を主な交通手段としているためである。そのため市より一隻の船が提供され、問題点が解決されたということであった。2004年12月上旬に完成し22日に落成式が行なわれた。

3.2006年1月に実施したインタビュー結果
2006年1月5日から7日までの三日間、現在デイケアセンターに毎日通学する20人の児童の家庭についてインタビューによる調査を実施した。(実際の児童名簿には30人の児童名が記載されているが、保護者の所得が極端に少ない場合や保護者の送迎が困難な児童は通学が不定期であり、また住居も不確かなため、今回の調査対象からは除外した。)
そこで、今回調査した項目は以下の9項目である。
  1. 保護者・児童氏名・年齢・性別
  2. 家族構成および年齢・職業
  3. 一ヶ月の平均所得
  4. 一ヶ月の平均教育費
  5. 教育費の内訳
  6. デイケアセンターを建設したことにより変化したこと
  7. デイケアセンターの利用目的
  8. 一年間のデイケアセンター使用回数
  9. デイケアセンターに対するその他の意見
上記項目の1から5についてまとめたのが表‐1である。表‐1より各項目について以下の点がわかった。

世帯人数、家族構成
  • 世帯人数は3人から12人と人数に幅はあるが、平均人数は6名である。また、子どもの数は平均4人である。フィリピンの出生率3.2人(WHO.Core Health Indicators 2002年)からすると若干多い数である。
  • 対象世帯の中で、母子家庭や父子家庭はない。
  • 一世帯にデイケアセンター通学対象児童が複数いる場合は、最年長者が優先されている。
  • NO,5世帯の兄23歳の職業は漁師であり、姉19歳は工員であるが、兄21歳と姉17歳は無職である。
  • NO,12世帯の兄16歳、姉19歳、17歳はすべて無職である。
  • NO,17世帯の兄20歳と19歳は無職である。
  • 祖父母は世帯人数に含まれていない。
平均月収、職業
  • 一世帯の平均月収は、1,000Pから8,000Pとかなり所得格差はあるが、20世帯平均は3,900Pである。単純に比較するわけにはいかないが、フィリピンの平均月収約12,400P(2003年フィリピン国家統計局資料)と比較してもかなり低所得者層であるといえる。

  • 15世帯(75%)が漁業に従事している。
教育費、その内訳
  • デイケアセンターの授業料は、月額75Pである。しかし、日々のおやつに充てる費用として、一般的に一日平均10P程度教育費として支出している。しかしこれは世帯により支出額には差があり、必ずしも定額ではない。例えば、NO,19世帯などは所得が少ないにもかかわらず支出額が多いのは、一人っ子であるからだという。

  • 小学校は義務教育であるため無償だが、菓子代を教育費として扱っている。

  • 高校の授業料は、公立高校で年額1,000Pである。
また、6から9の質問に対する回答は、次のようであった。

6の質問の回答
  • 非常にきれいなセンターであるため、子どもたちはセンターへ行くことを切望している。
  •   
  • 多くのことが改善された。特にきれいでよい場所である。
  •   
  • 先生は忍耐力があり、ほめるに足る人である。
  •   
  • 大変近くの場所になった。
  •   
  • 多くの知識を得られるようになった。
  •   
  • 常にCIWESTのスタッフが訪問してくるようになった。
  •   
  • 日本からのプレゼントが増えた。
  •   
  • 子どもたちはクリスマスをとても楽しめるようになった。
7の質問の回答
  • デイケアセンターの先生によって、毎月一回開催される保護者会
  • バランガイの主催によるメディカルミッション
8の質問の回答
  • ほぼ全員が15回と答えている。(保護者会12回とメディカルミッション3回)
9の質問の回答
  • 資金や教材等の支援者がほしい
  • 給水器
  • 扇風機、冷房
  • 壊れない花壇の柵(コンクリートの壁)
  • 二階のいす

4.インタビュー結果の分析および考察
(1)教育問題
今回の調査により、とりわけこの地区における教育問題として、75Pの授業料すら捻出できない家庭や通学不可能な家庭があることが分かった。調査上明らかになったのは10世帯であるが、実際はもっと多くの世帯で子どもたちが通学困難になっているのではないかと思われる。なぜなら、センターの先生ですら通学する児童の住居がどこにあのか知らないというのが現状である。つまり、この地区全体の対象児童数が完全に把握されていない状態を考えると、次回は全世帯を対象とした実態調査が必要になると思える。
次に教育費の質問において、授業料以外の支出金について調べた結果、それはおやつ代のみであった。また、これはそれぞれの家庭において必ずしも一定額ではないことが判明した。詳細については次回の調査で実施したいが、インタビューの中で、NO,19の保護者のように一人っ子である場合は他よりも支出金の多いこと分かった。実はこの質問ではテキスト代金や文房具代金などの教育関係品目に使われる金額を調べたかったのであるが、それを教育費として答える保護者は1人もいなかった。そこで実際の授業を観察してみると、ノートや鉛筆を持参する児童は皆無に等しいことが分かった。つまり、ノートや鉛筆などの文房具はセンター教員が準備して必要な時に貸し出しているようであった。この点については、他のセンターも同様の形態なのか、それともこのセンターだけが特別であるのかを調査する必要がある。
ところでフィリピンという国の教育問題を考える時、この国はアメリカに次いで大学の多い国であることを忘れてはならない。2000年の高等教育機関就学率などは30%を超えており、他の開発途上国と較べて教育水準が高いという特徴がある。しかし、これらの大学の中には日本の専門学校に近いものも多くある。すなわち、就職のための大学教育といったものが多く、経営、技術者養成、教員養成、看護などとその領域は著しく偏っている。その背景には厳しい経済情勢があるため、自然と国内での生存競争が厳しくなり、こうした教育傾向を生んでいるのであろう。
また、フィリピンの教育問題を考えるうえで、失業率の問題と大きく関連させる必要がある。それは高校卒業以上のいわゆる「高学歴者」ほど失業率が高くなっていることである。この原因として、実質賃金の低下もしくは停滞が考えられる。特に医師や教員、看護婦、技術者などの資格取得者や熟練労働者にとっては、国内の賃金が安いためあえて国内で就職せず海外で就職するという、いわゆる「頭脳流出」の比重が増加している。そして国内で就職する場合も、少しでも高い賃金、良い労働条件で働くために、自分が見込んだ企業への参入許可待ちをすることも多々ある。この待機期間が失業率となって現れている場合もある。しかし、マハガンボハギンでの調査では、対象世帯において大学まで卒業した者はいなかった。つまり、ここではいまで述べたような「高学歴者」による失業問題では少ないといえよう。この点については、この地区全体についてのデータ‐を収集したうえで分析する必要がある。
一般的にフィリピンで農業・漁業の家庭に生まれ、大学を卒業して資格取得者や高度熟練労働者にとなることは、経済的な点から考えても不可能に近いといえよう。つまり、この地区は今回の調査から分かるようにデイケアセンターの授業料75Pでさいままならない世帯が多いことから、大学卒業どころか高校卒業までの教育費を捻出することなどはとても不可能であるといえる。この地区の子どもたち、とりわけ男子にとっては、職業選択の自由も機会もあまりなく、将来は漁業の道を歩むという系譜が一般的であろう。
しかし、この地区に限らずフィリピン全体として失業者が多いことの原因として考えられることは、人口増加率の上昇に伴い労働人口にだぶつきが生まれたからであろう。本来ならその余剰労働者が他の産業部門へと移動するのであろうが、他の部門においても同様の傾向から、結局失業状態へと追い込まれたといえよう。このように余剰労働者が増加することによって、労働賃金の低下を導き、生活水準も当然螺旋を描きながら低下し、貧困状態もスパイラル的に下降していくといえる。そのような状況の中では、子どもたちの教育環境は悪化の一途をたどっていくといえよう。

(2)保護者の意見・意識
 (6)から(9)の質問の回答から、児童の保護者たちはセンターが建設されたことにより、どのような意見や意識を持っているかについて考えてみたい。
 デイケアセンターが建設されたことにより、すばらしい教育環境が整ったと感じている親が多いことは回答を見れば明らかである。また、知識を得る場としてのセンターの働きを喜んでいる回答もあった。また、先生の熱心な指導姿勢をうかがい知ることができる回答もある。特に教員の姿勢を裏付けるものとして、センター内にある各種の教材がすべて先生の手作りであること、特にバンブーハウスと呼ばれる竹で作った家も、子どもの教材件遊具として先生の手作りであることには驚かされた。授業時間は午前7時半から10時までであるため、午後の時間を利用してこれらの教材を作ったそうである。
また、年に一度タナウアン市全体のセンターを対象としたコンテストがあるそうだが、ここのセンターは全55あるセンターの中からコンテストに参加できるベスト26に選ばれ、さらに16位にランキングされたそうである。その審査は社会福祉省と教育省の担当者によって、287のポイントに対して審査をするそうである。そのうち200ポイントを獲得した結果が、16位ということである。そこには教員の教育に取り組む姿勢や態度といったものも含まれている。また、賞金として1,000Pを獲得した。それはセンターの電気設備費用に使ったということだ。教員も次回はさらに上位にランキングされるように努力をしたいと意気込んでいた。
ところで、彼がセンター教員になった経緯を聞いてみると、1989年から1999年までの10年間はサウジアラビアで農業関係の仕事をしていたが、その後フィリピンに戻り約2年間無職であった。そんな時、前任者である従姉妹に薦められて二ヶ月間助手としてセンターで働くようになった。しかし、本人は子どもが苦手であり、この仕事が不向きであると感じ一端は辞める決意をしたそうであるが、結局知らないうちに従姉妹によって教員として登録されてしまったため、2001年よりこの仕事を続けているそうである。現在はこの仕事が楽しく、また行政や保護者からも高い評価を得られているので、さらに向上することをめざして努力したいとの意欲を表していた。
また、この一年の間にセンターの庭にはシーソーとブランコが設置され、花壇も作られて各種の花が植えられていた。シーソーとブランコは副市長より寄贈されたものであり、花壇はセンター内の教材同様に教員によって週末を利用して作られたそうである。
以上のような点から、この一年の間にセンターに関わる子どもたちや教員、保護者の意識や意欲は向上していると判断できる。また質問票にあった年間のセンター利用回数が、ほぼ全員15回であった。これは必ず月一度の教員による保護者会が開催され、子どもの様子を伝達することや話し合いを持つこと、行事の企画などが行なわれたという。また、バランガイで実施するメディカルミッションにも積極的に参加した結果である。センターの利用については、このバランガイのメンバーだけではなく、周辺地域のバランガイ会議などにも広く利用されているとバランガイキャプテンは話していた。つまり、センターが単にデイケアセンターとしての機能だけではなく、コミュニティーホールとしての機能も十分に果たしていると判断できよう。
また9番目の質問の意図としては、意識や態度などのメンタル面についての前向きな向上を望むような、積極的な提案を期待したのであるが、回答として上がっているように、物質的な援助を希望するものになってしまった。しかし、逆に単に贅沢を望んでの要望ではなく、児童の健康面を配慮した物であったり、環境整備を考える物であったりした点に、私の考えたこととは違う意味で教育環境の向上を望むものであったといえる。
最後に今回の調査では、保護者へのインタビューに際してタガログの通訳としてセンター教員がボランティアを買って出てくれた。このような調査の場合どうしても避けられない点ではあろうが、調査をおこなっているのがドナーであり外部者である。今回のように通訳する側が受益者側であるため、調査対象者に対して我々が満足するような答えを誘導している傾向にあったと思える。私自身が気ついた時には指摘はしたものの、なかなかその意図が通じないといった問題点があった。このような調査の場合、事前にセンター教員と十分なミーティングを行い、今回の調査の目的を理解してもらえるだけの関係を築いておく必要があると思われる。
最後に、センター内に掲げられていた五項目の「デイケアサービスの目的」について記しておく。
身体の成長
個人能力開発
人間関係力
創造力と分析的な活動の開発
精神力と社会力の開発
快適さと安全の対策

(3)若年層の失業問題
調査対象世帯における一つの特徴として、若者の定職率の低さがある。ちなみに2000年の政府統計資料よると、バタンガス州が含まれるRegion「の貧困家庭比率は25.3%と国全体の比率33.7%よりも低くなっている。しかし、インタビューの結果からこの地区の若者の多くが高校卒業後も職に就けずにいることが分かった。近年、フィリピンの労働力人口 は急増している。2004年の労働力人口は3,540万人で、前年度よりも160万人増加している。こうした労働供給の高い伸びは、国内の人口増加率の高さに起因するものと考えられる。フィリピン労働雇用省によると、雇用されている若者の大部分は農業・漁業(約40%)とサービス部門(約40%)に従事している。それに対し、工業で雇用されている若者は18%程度である。
ここタナウアン市の北部には住友商事海外工業団地部が開発した、開発総面積300haのファースト・フィリピン工業団地があり、富士通、住友ベークライトなどが入居している。最近では、世界最大のたばこメーカー、フィリップ・モリスが同工業団地に進出し、世界最大規模ともいわれる煙草生産拠点を作ることで話題になっている。そのため、同じバランガイでも幹線道路に近い場所であるシチョ・マリアパス地区に住む若者たちはこの工業団地で雇用され、就労機会が以前よりも拡大されたようである。しかし、マハガンボハギン地区に住む人たちは、幹線道路までのアクセスが非常に悪いため、工業団地での雇用機会の恩恵には預かれずにいる。さらにこの地区の基幹産業はタール湖での漁業のみという状況では、失業率が高くなるのも否めないといえよう。
実際のフィリピンの失業率 は、1980年の5.0%から一気に上昇し、1998年には10.2%、2004年には11.8%にまで上昇している。これは他のアジア諸国と比較しても際立って高くなっている。そのうえ、不完全就業者が多く存在するため、彼らを失業者に組み込むとその比率は約30〜40%に上昇する。

5.今後の課題
CIWESTのセンター建設目的の一つに、「B地域の活性化を担うものとしてのデイケアセンター開発を推進すること」がある。今回はセンターに通学する児童の世帯と先生へのインタビューを中心に、生活の実態や教育意識についての調査を行ったが、次回はさらに子どもの将来に対する保護者の考えや現在抱えている家庭での問題などについてもインタビューを試みたい。さらに、マハガンボハギン地区の全世帯に対しても生活実態調査等を実施し、この地区における若者の失業率の問題や教育状態などを究明してみたい。そして、そのような調査を重ね分析した結果を、バランガイ委員会に提示したいと思う。  
フィリピンではすでにDepartment of The Interior And Local Government (DILG)において、各方面におけるバランガイの開発活動を紹介するハンドブックが配布されている。マリアパスについても環境管理部門の中で、農業開発の事例として紹介されているが、シチョ・マリアパス地区を中心としたものであって、漁業中心のマハガンボハギン地区はこの事例の中では出てこない。しかし、その中にはシチョ・マリアパスの問題として、若者の農業離れが指摘されている。つまり、先に述べた工業労働者が増加したことによる労働人口の移動問題である。マハガンボハギン地区については、このハンドブックには何も記載されていないので、詳細については私の分析した結果のみで現段階では判断するしかない。早急にもバランガイ全体に対する実態調査を実施としたいものである。


《参考文献》
・内海成治『国際教育協力論』世界思想社 2001年
・黒田一雄、横関裕見子編 『国際教育開発論』有斐閣 2005年
・佐藤 寛編 『参加型開発の再検討』アジア経済研究所 2003年
・大野拓司、寺田勇文編『現代フィリピンを知るための60章』明石書店 2001年
・LOCAL GOVERNMENT ACADEMY『HUSAY BALANGAY』Department of The Interior And Local Government 2002年
 


 
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